| 明石 卓巳さん | 1968年岡山県岡山市生まれ。グラフィックデザインをベースとした企画会社・株式会社レイデックス代表取締役、クリエイティブディレクター。岡山県の繊維問屋街・問屋町や福山市伏見町などの地域再生に携わる。 |
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葉脈のように、まちを育てる。
エリアの魅力を高める空き家の活かし方
− 空き家は、まちを構成するピースにすぎない
空き家活用において、そのまちがすでに観光地として完成されている、あるいは物件そのものに「築100年の醸造蔵」や「災害でも倒れなかった建物」といったストーリーがあるのなら、単体での活用もできると思います。
一軒を再生するのではなく、エリア全体を底上げするという発想が、空き家活用の可能性を広げていくと考えています。
− 過去に巻き戻すことで、地域に活気を生み出す
福山市からの依頼で、JR福山駅のすぐ横に位置する伏見町のエリアマネジメントに参画しました。プロジェクトが始まるにあたり、実際にまちを歩いてみると、地域に愛される食堂などさまざまな魅力があることを知りました。しかし、「ここにしかない何か」を求めて訪れたくなるという決定打には欠けるというのが正直な実感でした。
福山の最大の強みは何かを考えたところ、それは福山駅に新幹線のぞみが停車し、最短で瀬戸内に出られる利便性の高さ。そして何より、駅の目の前に福山城があることです。城下町は全国に数あれど、「駅にお城がある」まちは福山だけ。その唯一性を活かしたいと考えました。
伏見町は、かつて城のお堀があったエリア。つまり、昔は「お城の中」だったわけです。古地図を広げて、お堀はどこまでだったのか、水場はどこにあったのか、当時の人々はどこで井戸端会議をしていたのかなど、往時のまちの姿を想像していきました。そして、伏見町を「栄えていた時代のまち」に巻き戻そうと考えたんです。
まちの再開発にあたり、大規模なレジャーパークをつくる必要はないと考えています。そもそも私にはそんな力もありませんし、仮に実現できたとしても、「新しく持ち込まれたそれは一体何なのか」という説明から始めなければならない。そうなると、まちが仕上がるまでに時間がかかってしまいます。それに、プロモーション費用もかかってきます。
今日の取材場所である「AREA INN FUSHIMICHO」も、空きビルを再生した事例の一つです。壁や天井を思い切って剥がしてみたところ、躯体のコンクリートやむき出しの配管が現れ、想像以上にカッコよく、開放的な空間であることがわかったんです。ビルのオーナーでさえ、「こんなビルだと思っていなかった」と驚いていました。剥がすことで、空き家のポテンシャルが見えたわけです。
「AREA INN FUSHIMICHO」は今、暮らすように滞在できる宿や、講座やイベントもできるカフェを備えた複合施設として生まれ変わり、市内外の人々の交流拠点となっています。
− 「表」も「裏」もない、多様な価値観が混ざり合うまちへ
私がいつも大切にしているのは、「10年後にエリア全体をどうしたいのか」を最初に決めておくこと。ゴールラインを明確にしておかないと迷いが生じて、取り組み内容にブレが生じてくるからです。
ゴール達成のためには、順番がとても重要です。思いつきで動くのではなく、緻密に設計していく。そうしたやり方を、私は「エリアマネジメント」と呼んでいます。「まちづくり」という言葉は使いません。まちはそこに暮らす人の営みの積み重ねであり、意図的につくるものではないからです。「まちができた」というのは、エリアマネジメントがうまくいった結果論でしかないと考えています。
もちろん、計算通りにいかないこともあります。借りたい物件が借りられなかったり、事情で着手が延期になったりしますが、それでも、ゴールから大きくズレないよう、常に計算しながら動いています。
具体的にどんな「順番」かというと、メイン通りと裏通りを交互に計画し、動かしていくことです。メイン通りに何かをつくったら、そこから曲がった裏側にももう一つつくる。メイン通りだけを発展させて、裏通りを放置することは絶対にしません。
なぜこの順番が必要なのかというと、人間は直線的にまちを移動すると飽きてしまうからです。「メイン通り」と「裏通り」として直線的に整えたまちは一気に盛り上がるけれど、その分、冷めるのも早い。商店街も、横に伸びる路地を活かしていくことで回遊が生まれます。それと同じで、まちにおいてもメインとサブを同時に取り組み、一枚の葉っぱにある「葉脈」のように広げていくんです。
ただし、道が広いとか、バスが通っているといった「メイン道路」としての既存のイメージがある場合は、それを活かします。葉脈にも太い部分はありますから。けれど、葉脈はまんべんなく栄養が行き渡らなければ、栄養が足りない部分から枯れていってしまいますよね。まちもそれと同じです。
葉っぱ一枚、つまりエリアごと元気にしていくために、裏通りまで含めた全体を「メイン化」していく。それが、私のエリアマネジメントにおけるこだわりです。
また、まちに暮らす人は多様な価値観とライフスタイルを持っています。賑やかなメイン通りが好きな人もいれば、裏通りの落ち着いた雰囲気が好きな人もいる。「この路地はディープでマニアックだから、こういう店が合うのではないか」など、一つひとつ計算していきます。画一的な価値観で整備するのではなく、「誰かにとってのメイン」を増やしていく。それぞれの人に響く場所や機能を、どのタイミングで、どの場所に仕込むのかを設計していかなければ、エリアマネジメントはうまくいきません。
また、「そのまちだからこそ」の特徴をもった店や施設づくりも大切にしています。そこを無視したテナント構成で全国チェーンのショッピングモールのようになってしまっては、エリア固有の魅力を守り、伝えることが難しくなります。訪れる人の数は多くても売り上げが上がらず、店の入れ替えが頻繁になるだけです。建物のオーナーにとっては望ましいかもしれませんが、まちの人々の喜びには必ずしもつながらないでしょう。
− 目指すのは、暮らす人の日常を豊かにすること
私が目指しているのは、日常の場所で、ちょっと特別なことが行われるまちです。例えば、川沿いのまちで週末に開かれる朝市や、年に一度、神社で行われるお祭りなど、そうした風景はすごく魅力的ですよね。これはいわば、「特別な日常」です。また、お祭りは地域のコミュニケーションを育てる場でもあるため、エリアを再興する過程で、地域のお祭りを復活させることもあります。まちの歴史や文化を踏まえ、どんな視点からマネジメントするかをエリアごとに考えるようにしています。
書道で最初の一筆が全体の構図を決めるように、エリアマネジメントも最初の打ち出し方が肝心です。岡山の方言で、書道の一筆目や物事の始まりを「うったて」と言いますが、私は「うったて主義」を大切にしています。常に意識しているのは、単発のイベントで人を集めることを出発点にしないこと。イベントのときだけ人が集まる状態になると、そこは日常化されていない場所になってしまいます。「イベントを待つまち」というイメージがつくと、日常の魅力は育っていかないと思うんです。
ただ、社会実験としてイベントを行うことはあります。人が集まった場合に交通へどのような影響が出るのかを検証したり、「こんなことができるなら、この場所で店をやりたい」と思うプレイヤーが現れるかを確かめたりするためです。それはあくまで検証のための手段であり、目的ではありません。
伏見町ではかつて商店だった空き物件が解体され、駐車場が増えたことで賑わいが減っているという課題がありました。そこで「駐車場を店に変える」という方向性を打ち出し、駐車場や空き家、人通りが減っていた道路空間を活用して、夜市「文化市」を定期的に開催しました。
このまちはかつて城のお堀にあたる場所であり、空襲で焼け野原となった後、戦後に再整備された歴史を持っています。その背景を踏まえ、戦後の闇市を想起させる企画を通じて、往時の活気を現代に再現したいと考えました。実施後はデータを収集し、うまくいかなかった点は軌道修正する。ゴールを見据えながらトライ&エラーを重ね、アジャイル開発を進めていくことで、まちの「日常」を豊かにしていきたいですね。
後編につづく