“好き”を仕事に

Interview

フランス→広島県竹原市

パスカル・ディオンさん 本村由美子さん ご夫妻

#カフェ#古民家#山が近い#海が近い

自然の中に建つ古民家が 結んでくれたご縁を大切に、 この町と優しく暮らしていきたい。

趣味を楽しめる場所で田舎暮らしをしたい、カフェを開いてみたい。そんな理想を思い描くことはありませんか。とはいえ慣れない環境でやっていけるのか不安を感じて、簡単には踏み切れないことが多いですよね。竹原にお住いのパスカルディオンさん・本村由美子さんご夫妻は、フランスから移住し、古民家を住まい兼カフェとして暮らしていらっしゃいます。先輩移住者として、田舎での古民家暮らしのきっかけや苦心されたことなど本音でお話しいただきました。

—— どちらから移住されたのですか。

私はフランスのパリにある日本の旅行会社で働いていて、旅行者をガイドしていました。彼とは案内していたマルシェで知り合い、何度も会うようになって親しくなり結婚したんです。彼はブルターニュの出身で、マルシェでは出身地の塩や産物を販売していました。

 

私の出身地は、広島県三原市です。結婚してから彼と年に1~2回は里帰りしていました。私と知り合うまで日本食をほとんど食べたことがなかったのですが、日本の文化もすっかり気に入ってくれて。彼が日本を好きになってくれたから、移住を考えられたんだと思います。

—— いつ頃から田舎暮らしを計画されたのですか。

3年ぐらい前から、日本に住んでもいいんじゃないかな、と思い始めました。
そのころから、“いつか日本に住むために”というぐらいの楽な気持ちで、カフェが開けるような物件を探していました。彼は釣りが趣味で、海が好きなので、沿岸地域を中心に物件を検索。尾道や竹原の町並み保存地区の古民家を見学しました。でも、手狭だったり、改修に費用がかかりそうだったり、移住してもいいと思えるぐらいの物件となかなかであえなかったんです。

 

そんな中、空き家バンクでこの家を発見!ですが2~3日後にはパリに帰る、というタイミングだったんです。掲載されていた写真もよかったので、何とか見て帰れないかと思っていたのですが、市の担当の方も各所に連絡を取って尽力くださり、奇跡的に帰国前に見ることができました。そのタイミングで見学できてなかったら、ここを選んでいなかったかもしれませんね(笑)

—— どんなところが魅力的でしたか。

古民家がいい保存状態だったところですね。私たちの入る前にはお蕎麦屋さんだったということもあり、カフェにするための改装費が少なくて済みそうでした。畑や駐車場にできる広い土地もあって、カフェを開くイメージがすぐにできました。

 

 

正直、私よりも彼が「ここがいい」とかなり気に入った様子でした。歴史、風格、これぞ日本家屋といった佇まいに惹かれたと言っています。竹原には海もあり、彼の趣味である釣りが楽しめることもプラス要素だったんだと思います。

 

ただ、フランスからの移住は一大決心となるので、即決できませんでした。他に借りたい人が現れたら諦めるしかない、という状態で1年ぐらい悩み続けました。その間、人の手に渡りそうになったこともありましたが、私たちの決断を待っていてくれるかのように残っていたので、決断して仮契約を結びました。

—— 入居までにいろいろあったそうですね。

平成30年に入って仮契約を済ませました。帰国後、フランスで移住の準備をしていたとき、7月に豪雨災害があったんです。そのとき、ここは近くの川が氾濫して床下が浸水するなど被害を受けました。私たちはすぐに動けず、10月になってやっと帰ってきました。

 

被害を目の当たりにして、私は正直「これは暮らすのは無理なんじゃないか」と思ったんです。でも彼は「家は待っているよ。家が残っているということは、そういう(ここで住む)ことだよ」といってくれて。
また、空き家バンク担当の職員さんが留守中、畳をあげてくれるなど、何かとサポートをしてくださったのも心強かったですね。パリは今でも好きな街ですが、個人主義で人付き合いはとてもライトなんです。この地域の人たちの温かさが胸に響いて、ここでやっていこうという気持ちが固まりました。

—— 暮らし始めてみて改めて感じたことなどはありますか。

ここ東野町は、竹原市の中でも一番人情深い町なんじゃないでしょうか。本当にご近所さんに恵まれていて、いつも気にかけてもらっています。

 

私たちは移住してすぐに、ミントやススキが大きく育って、茂みと化した畑の手入れをどうしようか困っていました。

 

 

近所にあるホームセンターで耕運機が借りられることを知り、明日借りてこようと考えていた最中、ご近所さんが耕運機を持ってきてくれて助けてくださったんです。面識のない方でご挨拶もまだだったのに、どうして知っていたのかと思ったら、サポートいただいていた方々が、近所の朝市で私たちのことを紹介してくださっていたようです。他にもこういったエピソードはたくさんあります。
引っ越し早々は冷蔵庫もなかったんですが、そんな時に交代でご飯を作って持ってきてくださったり…本当に涙が出そうでした。

 

私たちはパリから電車で10分のヴェルサイユで暮らしていましたが、そこでは隣に住む人と街で出会っても誰かわからない、といった状態でしたが、ここはご近所さんがお花を持ってきてくれたり、お魚を持ってきてくれたり、毎日のように触れ合っています。オープン前に地域のお祭りがあったんですが、ご近所さんから「挨拶代わりにガレットを食べてもらったら」と素晴らしいアドバイスをいただき地域の皆さんとの交流が広がる良いきっかけになりました。本当にありがたいことです。
また、何かとお誘いもあり、彼は地域の方と一緒に釣りを楽しんでいます。

 

 

ただ、彼はまだ日本語が少ししか話せないので、コミュニケーションがうまく取れないところがもどかしいようです。これは、地域の方々と触れ合っていけば、きっと時間が解決してくれると思っています。

—— この古民家のお気に入りポイントはどこですか。

90年以上の歴史を持つ古民家は力強く、とても心地いい空間です。もともと私たちは、古いものを生き返らせながら大切に使っていきたいと思っていたので、ふすまは外しましたが、すだれやタンスなど、納屋から出てきたものを洗って、塗って、息を吹き返させて使っています。カフェスペースの家具類も古道具屋さんや蚤の市で調達するなど、新しいものはないですね。

 

 

 

彼のおじいさんが持っていた100年以上の歴史のある天秤や、私がフランスで愛用していた壁掛け時計など、フランスから持ってきたものも取り入れても違和感がありません。

 

 

古民家には歴史を積み重ねているものを柔軟に調和する力がありますね。

—— お店であるカフェをする環境としてこちらはいかがですか。

季節のクレープ(ガレット)を提供するカフェを開いています。

 

 

店内は、のどかでゆったりとした時間が流れています。それを肌で感じていただけているのか、のんびり過ごしていかれるお客さまが多いですね。とてもうれしく思います。
また、エアコンがないので窓を開放しています。そのため外の音がよく聞こえてくるのですが、お客さまから「鳥の鳴き声は録音ですか?」と言われたことも。里山の特権ですね。

 

 

私はカフェを始めてすぐに、竹原市の商工会が主催されていた創業塾に入りました。そこで私たちと同じように移住してお店を始めた方と出会うことができて、本当によかったです。同じ目標を目指す仲間がいることが大きな支えになっています。

私たちは、このお店を地域の旗印にしていくことが、お世話になっている方々への恩返しと考えています。

 

—— ご自身の体験を踏まえ、移住を考えている方にアドバイスをお願いします。

フランスが嫌いになって移住したわけではないので、お世話になった人たちとお別れするのは寂しかったですね。年齢的にもこれから先、何度も移住できるわけでもないので、リセットするのは大変でした。

また、カフェや公共交通機関もすぐ利用できる都会のヴェルサイユと比べて、騒音もない、人もいない竹原市東野で「ここまで静かでやっていけるのか」心配でした。実際、気持ちをすり合わせるしんどさがありました。人恋しくなったんだと思います。しんどくなったら、買い物に出かけたり、ドライブに出かけたりしました。人や車が通っているのを見るだけでいい気分転換になりました。

 

いきなり友だちを作ろうと考えても、それは難しいものです。
焦らなくても大丈夫、少しずつ周囲と触れ合っていけば、だんだん知り合いが増えていきます。やがて、静かであることがホッとし始めますよ。いつまでに〇〇する、など決めずに、ゆったり構えることが大事なのかもしれません。
ここは、海があって、土があって、緑があって、安全な場所。時間に追われず、優しく暮らしていくことができて、第二の人生をはじめる移住先としておすすめします。

 

 

お二人が営む古民家のクレープ(ガレット)カフェはコチラ

 

 

 

Maison Dion 〜メゾンディオン

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