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地域に溶け込みながら
じっくり家探した賃貸の
一軒家をDIYで理想の住まいに

  • 引き継いだ人
    藤村 貴規さん・菜緒子さん

    貴規さんは廿日市市、菜緒子さんは広島市から大崎上島町に移住。庭付き一軒家を借りて、3歳の娘と暮らす。

  • つないだ人
    三村 はるなさん

    大崎上島町地域経営課で移住相談や空き家バンクを担当。家主と移住者のマッチングを大切にするのがモットー。

  • 託した人
    川本 宏さん

    大崎上島町出身。現在は廿日市市在住で、島に帰るのは年に1~2回。約30年前から生家を賃貸に出している。

本土からフェリーで約30分。瀬戸内海のほぼ中央に位置する大崎上島町は、広島県唯一のフェリーでしか行けない自治体です。

この島に移住した藤村貴規さん・菜緒子さん夫妻は、島内でもいち早く空き家活用を行ってきた川本宏さんが所有する一軒家を借りて、DIYでより快適な住まいへとリノベーション。貴規さんと、移住相談に携わる町役場職員の三村はるなさんは「島での家探しは焦らなくても大丈夫」と口をそろえます。その真意をお聞きしました。

移住のきっかけ

貴規:僕はずっと地元の廿日市市に住んでいて、「移住したい」と考えたことはなかったんです。大崎上島を初めて訪れたのは、トライアスロンの大会でした。町民の方々がドリンクの配布を手伝っていて、大会後は農家のおかあさんが「お疲れ様」とミカンをくださり、人の温かさを肌で感じました。自然豊かでゆったりした空気感にも癒やされ、島内にある『ホテル清風館』の温泉に浸かっているとき、ふと「ここで暮らすのも良さそうだなあ」と思ったんですよね。

そこから何度か大崎上島を訪れるうちに観光協会の方と仲良くなり、島の魅力をさらに知っていきました。そして大崎上島町役場が職員を募集していることを知り、公務員試験に挑戦。晴れて採用が決まり、町営住宅を借りて2018年に単身移住しました。

菜緒子:その翌年、一軒家に引っ越すタイミングで結婚し、私も広島市から大崎上島に移住しました。移住前にハローワークを通じて島内の企業と出会い、今もその会社に正社員として勤めています。移住してから子どもが生まれ、家族3人で暮らしています。

物件との出会い

貴規:一軒家に住みたかったので、単身用の町営住宅に住みながら物件を探していきました。ただ、「DIYで改修できる」「庭付き」「賃貸」といった条件に合う空き家がなかなか見つからず…。廿日市の実家をいずれは僕が管理することになるため、島で家を購入しても責任を負いきれないという気持ちから賃貸住宅を希望していたんです。

島には民間の仲介業者がいないため、インターネットや空き家バンク、身近な人たちから情報収集する中で、当時の空き家バンク担当から教えてもらったのが今の家です。内見してみると庭が広く、また好きに手を加えて良いとのことだったので、ここに決めました。

川本:昭和50年に建てたこの家が空き家になったのは、今から30年ほど前。町の空き家バンク制度は当時まだありませんでしたが、島内で発電所が建設されるにあたり、作業員の宿泊所として建設会社に貸し出していました。その数年後、空き家バンクに登録してからは、藤村さんご夫妻の前にも何人か住んでくださっていたんですよ。

貴規:前に住んでいた方が雨漏りなどを修繕してくださっていて助かりました。

リノベーションについて

貴規:フローリングを張り替えたり、壁を白色に塗り直したり、ふすまを壁に変えたりと、ずっとやってみたかった「DIYで理想の住まいづくり」という夢を叶えることができています。

「自由にやってOK」という川本さんのお言葉に甘えて、本当に好きなようにリノベーションさせてもらっています。庭に畑やピザ窯も作りました。

before

after

川本:今日初めて室内を見せてもらったけれど、ここまできれいに直してくださっているとは驚きました! 間取りが同じでも、雰囲気がまったく変わるんですね。

自分が生まれ育った家をこんな風に大切に使ってもらえるのは、本当にうれしいです。

貴規:大崎上島町には空き家改修費を最大100万円補助してくれる助成金制度があるのですが、僕たちは「空き家になって1年以上経っている」という条件を満たしていなかったので使っていないんです。お風呂のリフォームも自費で行いました。

三村:藤村さんのように、前の住人の方が転居して1年未満というのはレアケースではあるんです。手直しせずに入居できる空き家のほうが少ないので、条件に当てはまる方はみなさん利用されますね。

私たち地域経営課に相談していただければ空き家改修の担当課に繋ぎ、町内の業者さんもご紹介します。

大崎上島町の補助金情報

大崎上島町の空き家の傾向

三村:大崎上島では昭和40年代に建てられた、築50~60年の空き家が多いですね。

島外に出ている子どもさんが相続したものの、住む予定はないので手放したいという相談をよくいただきます。遠方に住んでいると管理が大変なので、賃貸よりも売却を希望される方がほとんどですね。

スムーズに成約が決まるのは、やはり家の状態と権利関係を整理している物件、そして空き家になってからの期間が短い物件です。

貴規:たしかに、今の家にお仏壇がないのは助かりました。お仏壇や生活用品が残っている空き家はけっこう多いみたいですね。

三村:そうですね。さまざまなご事情があることは理解した上で、それでも売主さんには仏壇や衣類など、生活感があるものは最低限片付けていただけるようお願いしています。

川本:私も空き家バンクへ登録するにあたり、兄弟の手を借りながら家財道具を処分しました。家の整理は本当に大変だけれど、早めにしておいた方が良いと思いますね。

島での人付き合い

三村:「ご近所付き合いを大切にしてほしい」とおっしゃる家主さんも多いですね。

あまり人と関わらず静かに過ごすよりも、むしろたくさん関わって、遠慮なく周囲に頼っていくほうが地域住民と良い関係を築くことができ、結果的に暮らしやすくなるのではないかなと思います。

菜緒子:私も田舎は人間関係が濃すぎるイメージがあったのですが、実際は良い距離感でお付き合いできていますね。

子どもが少ない地域なので、娘のことを気にかけてもらえるのもありがたいです。娘を散歩に連れて行ってくださったり、季節のお花を届けてくださったり…。彼が言っていた通り、皆さんすごく親切なんです。

貴規:僕は最初に住んだ町営住宅がある地域の消防団に今でも所属しています。同世代の団員も多く、そこから交友関係が広がっていき、島暮らしがもっと楽しくなりました。
それから大崎上島といえば、町民体育大会!

川本:町民体育大会は、今も昔も島の一大行事なんですよ。

貴規:昔に比べて競技数は減っているようですが、今でも島の皆さんの思い入れが強くて。島内の全世代が集まるイベントなので、参加すれば地域の方々と自然と仲良くなれます。

離島暮らしに向いている人

貴規:都会と違って家にいる時間が必然的に長くなるので、生活を楽しみたい人が向いていると思いますね。

菜緒子:私は特に移住希望があったわけでもないので、最初は「大丈夫かな…」と不安でした。でも、いざ住んでみると、離島といっても廿日市市や広島市とは車とフェリーで約2時間程度の距離だし、島内にはスーパーやATM、郵便局などがそろっているから、日常生活で困ることは意外となくて。だから、誰でも大丈夫なんじゃないかな。

川本:私が住んでいた時代のことを考えると、「島暮らし=農業」のイメージだけど、最近はそうでもないみたいだね。お二人を見ていると、やはり仕事をしっかり決めて移住したから、安心して暮らせているような気がします。


貴規:かつては農業をやりたくて移住する人も多かったようですが、最近は「この島で何かやりたい!」という思いでIターン移住する人が増えているみたいですね。
そういう方々がベンチャー企業を立ち上げたり、町外の企業が支社を作ったりしていて、移住者がそこで働く…という流れも生まれつつあります。


菜緒子:私自身、島の会社で働き始めてから心身ともに余裕ができて、子どもとの時間もしっかり確保できています。
フェリーでしか来られない島だからこそ、治安も良いのだと感じています。都会と違って夜はちゃんと暗くなるので、「人間らしい生活」を求める人にもおすすめですね。

三村:私はマリンスポーツや釣りが好きで、平日でも趣味が楽しめる島の生活が気に入っているので、生まれてからずっと大崎上島で暮らしています。

島ならではの時間の使い方や美しい景色など、「島のここが好き!」というところが1つでもあれば、もし悩むことがあっても「自分はこれが好きで暮らしているんだ」と原点に立ち返れるのではないかと思います。

お試し移住のススメ

三村:勢いで家を決めてしまうと、「こんなはずじゃなかった…」となったときに相談しづらいと思うんです。なので「早く決めたいからどこでもいいです」という人にも、なるべく話を聞くようにしていますね。

お子さんがいらっしゃるご家庭だと、希望学区を考慮して物件を探す必要がありますし。また、車を持っていない場合は島内移動が大変であることなど、その人にとってデメリットになりそうなことも率直にお伝えしています。

大崎上島町はお試し住宅『トライアルハウス大串』を運営しています。
家具家電を完備したログハウスで、移住希望者は1週間から3カ月間住むことができます。

空き家を探す間の仮住まいとしてはもちろん、イメージとのギャップを減らすことにも役立ちますよ。これまでに利用された方々からは「車なしの生活は想像以上に不便だった」「こんなに島民の方々から親切にしてもらえると思わなかった」などの声をお聞きしているので、お試し移住で得られるものはきっとあるはずです。

お試し住宅『トライアルハウス大串』について

貴規:「家探しは焦らなくても大丈夫!」と、僕からも伝えたいですね。
仲介業者のいない島で家探しをするなら、地域の人々と繋がっていたほうが絶対に良いです。

単身移住の場合は僕のように町営住宅という選択肢もありますし、今は民間業者が運営するアパートも増えているので、賃貸住宅を利用して、地域に馴染みながらゆっくり探していくのもアリだと思います。

空き家で出会った
探し手とオーナー
それを繋いだ人のお話。

AKIYA
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