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夢と暮らしやすさを両立させた
バランス重視の家探し

  • 引き継いだ人
    福田 博之さん・瞳さん

    広島市から江田島市に移住。子ども 2 人、猫1匹とともに島暮らしを満喫中。古民家と農地を譲り受け、博之さんは『ハルテラス農園』を開業。

  • つないだ人
    為政 伸彦さん

    『コミュニティスペース・フウド』館長。自身も『フウド』を利用した江田島市への移住者。地域子ども食堂の運営なども手がける。

神戸で経験した海に近い暮らしの楽しさと開放感が忘れられず、2024 年に広島市から瀬戸内海で 4 番目に大きい島・江田島市に移住した福田さん一家。不動産資産運用会社を離れて農家に転身した夫・博之さんと、島で動物クリニックを開業予定の妻・瞳さん。理想と現実のバランスを見極めた家探しや、地域との繋がりを大事にした農地継承についてお話しを伺いました。

移住の経緯

博之:江田島市に移住する前は、不動産資産運用の会社に勤めていました。人生も半分過ぎて、やりたいことをしたいと考えたとき、頭に浮かんだのが「島暮らし」と「農業」でした。熊本出身の私はこれまで、東京や神戸、妻の地元である広島市など、さまざまな土地に住んできました。その中でもとくに思い出深いのが、海が身近だった神戸での暮らしです。

瞳:海浜公園そばの社宅に住んでいて、コロナ禍で外出しづらいときも、思い立ったらすぐ海に出て遊べる環境だったんです。

博之:そんな海暮らしの楽しさや開放感が忘れられなくて。妻の実家がある広島県で、当時のような生活が叶う場所を探し始めたんです。江田島市を選んだ理由は大きく2つあります。

1つ目は、オリーブの栽培が盛んなこと。コロナ禍をきっかけに食の安全を意識するようになり、また、いつかは勤め人ではなく経営者になりたいという思いから、農家への転身を決めました。とはいえ、経験ゼロから野菜栽培で生計を立てるのは現実的ではありません。そこで、オイルなどに加工することで付加価値を生み出せて、限られた面積の畑でも収益に繋がるオリーブの栽培に挑戦することにしたんです。

2つ目は、子どもたちの教育環境です。江田島市から広島市は、フェリーで約 30分とアクセスが良いんですよね。子どもにとっては広島市をはじめ、隣接した呉市の学校も通学圏内になるので、学業の選択肢が広い点が魅力でした。そうした理由から2024年に、広島市から江田島市へと一家で移り住みました。

瞳:子どもたちは島内の小学校に通っているのですが、1学年30人程度とちょうどよい規模感です。江田島市は自衛隊関係のご家族も多く住んでいるため、転校生の受け入れに慣れているみたいで。子どもたちもすぐに溶け込み、今では島の友達と釣りに出かけたりしています。

物件選びのポイント

博之:物件探しでは江田島市移住・定住ポータルサイト『hodohodo』や広島県の『みんと。』といった空き家バンクや、不動産会社のサイトを2カ月ほどチェックしていました。そうして見つけたのが、『hodohodo』に登録されていた築90年の古民家です。

私たちが重視した条件は「昔ながらの丸い梁や柱が残る古民家」「バーベキューができる広い庭付き」「カーテンを開けて暮らせる立地」「水回りがリフォーム済み」、そして「海に近いこと」。この家はすべて満たしていましたが、予算より高く、当初は第3候補だったんです。しかし、オーナーさんが家財道具をすべて撤去し、家全体を良い状態で維持してくださっていたので、修繕費がほとんど不要という大きな利点がありました。実際に直したのは畳と障子、居間の天井だけで、それも市の補助金を利用できました。

空き家を購入するときは、安く手に入れてリフォームに力を入れるか、多少高くても状態の良い物件を買うかの2択ですよね。我が家は後者を選んで正解でした。理想の家づくりも素敵ですが、状態によってはDIYが難しい場合もあります。

YouTubeで見るのと、実際にやるのとでは大違いですから。修繕にどれだけ時間とお金をかけられるか、自分で直せるのか。家選びは憧れだけでなく、現実的な視点を持つことが大切だと思います。

瞳:購入してすぐに住み始められる点も決め手でした。もし家財道具が残っていたら、片付けから始める必要があったでしょうし…。オーナーさん自身も広島市内に移られているので、家を「買う」側の気持ちを理解しておられるのだと思います。家の清掃や庭の草刈りまで行き届いており、購入者にできるだけ負担がかからないようにされていました。

博之:オーナーさんは元柑橘農家で、家から少し離れた場所にある約1,300㎡の農地も含めて譲っていただきました。農機具まで譲ってくださり、今でも「これ要る?」 など連絡をくださいます。とても親切で、良いご縁に恵まれたと感謝しています。

瞳:私たちは最初、景色がきれいな海沿いの沖美町を希望していたんです。でも実際に住んでみると、お店が多く利便性の高い大柿町を選んでよかったと感じますね。家族での移住は、ただでさえエネルギーを使うもの。引っ越したばかりの頃、近所のスーパーでお惣菜を買えることも心の余裕に繋がりました。

博之:Uターンでない限り、移住者は最初、どうしても孤独になりがちです。人が少ない場所よりも、地域の人や他の移住者と関われる場所を選んだほうが良いと私は感じています。

『フウド』の移住者サポートと江田島市の空き家状況

為政:私たち『一般社団法人フウド(以下、フウド)』は、江田島市への移住サポートも行っています。空き家や働き先の案内に加え、移住者同士が交流できるイベントの開催などに取り組んでいます。

博之:私も『フウド』のイベントに参加していますが、とても有意義な場ですよ。ここで知り合った移住者仲間も多く、こうしたサポートがあるのは心強いですね。

瞳:我が家もそうでしたが、生い茂っていた庭の草木が刈られているだけでも、家の印象はぐっと変わります。明るくすっきりした雰囲気の家は、購入者側も検討しやすいですね。

為政:空き家の状態はさまざまですが、移住希望者のニーズもさまざまです。リフォームに投資できる人にとっては、老朽化が進んでいても「広い家を安く手に入れられる」ことが魅力になる。駐車場が少ないなどの懸念点も、人との繋がりや地域の協力で解決できることもあるため、そうした可能性も含めて提案しています。

博之:江田島市役所では、空き家の購入や修繕、DIYに利用できる補助金制度や不動産事業者の紹介もしてくれます。移住を決めたらぜひ相談に行ってほしいですね。

為政:『フウド』も行政と連携しています。年間およそ100件の相談がありますが、実際に移住を決めるのはそのうち1割程度。それでも、内見や交流を通じて、納得した上で決めていただけるよう努めています。

畑の継承について

博之:家と一緒に手に入れた畑は休耕地だったので、まずは開墾から始めました。江田島に限らず瀬戸内の島々は海と山に囲まれていて平地が少なく、農地も斜面にあることが多いです。新規就農者にとっては大変なことも多いですが、県の補助金を利用して農業の学校に通い、卒業後も補助金を使って作物を育てる方法もあります。

ただ、私は正反対のやり方を選びました(笑)。補助金には頼らず、人とのご縁を通して畑を広げていくスタイルです。JAの勉強会に参加して知り合ったベテラン農家さんから栽培方法を教わるほか、地域の消防団などへ積極的に参加して自分のことを知ってもらい、農地を譲ってくれる方を探しています。

こうして少しずつ広げた畑は、現在およそ1万平方メートル。『ハルテラス農園』という名前で、オリーブ、柑橘、イチジクを育てています。来年からはオリーブ畑と柑橘畑をさらに拡張する予定です。試行錯誤の日々ですが、たくさんの方に助けていただきながら走り続けています。

栽培に関しては、YouTubeやSNS、チャットGPTからも情報を集めていますよ。収穫した農作物はJAに出荷するだけでなく、ドライフルーツなどの加工品としてマルシェや委託店舗で販売しています。「あんたのとこの柑橘、おいしかったわ~」と言ってもらえると胸がいっぱいになります。

江田島の魅力

博之:念願だった島暮らしは本当に楽しいです。広い庭でバーベキューをしたり、近くの海で釣りやSUPをしたりと、思い描いていた生活を満喫できています。息子も「江田島は神戸と同じくらい楽しい!」と言ってくれているんですよ。移住1年目にして地域の祭りで獅子を舞ったのも、田舎ならではの体験ですね(笑)。子どもたちも太鼓や踊りに参加して、都会では味わえない文化に触れています。

瞳:関東に住んでいたときは、「結局どこまでいっても他人は他人」と感じることが多かったんです。でも江田島市に来てからは、そんな寂しさとは無縁になりました。移住直後はご近所の方が次々と家を訪ねてきてくださり、挨拶周りをする前から打ち解けることができました。最初は少し驚きましたが、まさに私が求めていた温かな距離感でした。江田島の人は感情表現が素直で付き合いやすいですね。

為政:福田さんご夫婦のように、江田島市では5年ほど前から、移住をきっかけに新たなことにチャレンジする移住者が増えています。

瞳:はい。獣医師の資格を生かして、島で動物クリニックを立ち上げる準備をしています。地元の方から「手術や入院が必要かどうか診てもらえるだけでも助かる」と声をいただき、子育てと両立できるよう往診を中心にスタートする予定です。

博之:「車で往診する際に、自家製の柑橘ドリンクを売るのもいいかもね」なんて話しながら、これからもいろいろな挑戦をしたいと思っています。

空き家で出会った
探し手とオーナー
それを繋いだ人のお話。

AKIYA
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