空き家を宿に変え、地域の課題を解決。
民泊がまちの活気を生み出していく
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引き継いだ人小坂 政彦さん・由香里さん株式会社アックス
物流会社を本業に持つ。元・社員寮の物件取得をきっかけに、副業として民泊施設「エデンの海ヒルズ」を2025年に開業。
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つないだ人特手 大輔さん株式会社hacomono
大手スポーツジムでも採用されている無人運営システムを応用し、地方の空き家を活用した無人型宿泊施設の開業・運営を支援。 -
つないだ人漆畑 悠希さんReGACY Innovation Group株式会社
竹原市より受託した産業振興事業「たけはらDX」において、地元事業者と協業する首都圏のスタートアップ企業の誘致を担当。
瀬戸内海の多島美が広がる港町、竹原市忠海町。
海を望む高台に建つ「エデンの海ヒルズ」は、企業の独身寮だった建物を活用した民泊施設です。
町並み保存地区や大久野島などの観光資源を持つ竹原市では、空き家の増加や、観光客を受け入れる宿泊施設の不足が課題となっています。「エデンの海ヒルズ」は、こうした二つの課題を解決する糸口になり得る取り組みです。大規模な改修を行わず無人運営を導入することでコストを抑え、外国人観光客の長期滞在需要を取り込むことで収益を生み出しています。
民泊を運営する小坂さんご夫妻と、開業を支援した特手さん、漆畑さんに、空き家を宿泊施設として活かすことの可能性や、地域にもたらす変化についてお聞きしました。
空き家を民泊として活用した経緯
小坂(政):この建物はもともと、竹原市内にあるメーカー企業さんの独身寮でした。売りに出された際、私の父がご縁をいただいて購入したんです。
築40年とは思えないほどきれいに保たれていた建物の活用方法としてたどり着いたのが、民泊でした。一番の理由は窓の外に広がる瀬戸内海の眺望ですね。この絶景を、多くのお客様に喜んでいただけるのではないかと考えたんです。
漆畑:風光明媚な竹原は国内外から観光客が訪れるまちですが、宿泊施設が少なく、宿泊客が近隣市町へと流れてしまう…という市としての課題もありました。
小坂(政):そうなんですよね。ただ、私たちには本業があり、宿泊業の経験もなかった。特に人手不足がネックとなり、なかなか踏み切れずにいました。
小坂(由):そんなとき、市が取り組む産業振興事業「たけはらDX」を通じて、特手さんと出会ったんです。
特手:私たちは愛媛県などで無人宿泊施設の開業・運営を支援しており、竹原で実証実験ができる拠点を探していました。お互いにとって良いタイミングでしたね。
小坂(政):hacomonoさんのシステムやノウハウを取り入れれば、人手不足という課題をクリアしながらスモールスタートできる。そう考え、民泊への挑戦を決めました。
建物のポテンシャルの活かし方と、民泊に向いている物件は?
特手:初めて現地に伺ったとき、瀬戸内海を一望できるロケーションに加え、敷地内のテニスコートなども独自の強みになると感じました。
小坂(由):でも、当初は「宿にするなら全体的にリフォームしなければいけないのでは」と思い込んでいて、客室のユニットバスも「くつろげないのでは」と心配だったんです。
特手:そういった不安を相談してくださいましたよね。ターゲットとなる外国人観光客は普段から湯船につかる習慣があまりなく、シャワーがあれば十分満足していただけます。洗濯機なども既存のものがそのまま使える状態でしたから、「ゼロリフォームでいきましょう」とお話ししました。
実際、初期費用をかけすぎて後から経営が苦しくなってしまうオーナーさんも少なくありません。リピーターが増える民泊は、施設の豪華さよりも、清掃が行き届いていることや、こまめなコミュニケーションのほうが重要なんです。
小坂(政):詳しい方から知識を得て、初期費用を最小限に抑えられたのは大きな利点でした。
特手:それから民泊で避けたいのは、ビジネスホテルとの競合です。駅に近くても1~2人しか泊まれない狭小物件だと、どうしてもホテルとの価格競争になりやすい。一方で、駅から離れていても駐車場があり、8~10人ほど泊まれる一棟貸しなら、3世代旅行やグループ旅行の受け皿になります。
和室が続く間取りや低い天井、さらには傾いた廊下でさえ、外国人には古い日本家屋独特の「味わい」や異文化体験として喜ばれます。その土地ならではの体験やオーナーさんの個性を掛け合わせれば、地方の空き家であっても差別化できるんですよ。
無人型民泊の運営について
小坂(由):予約管理は、世界的な宿泊予約サービスのAirbnbを利用しています。翻訳機能があるので、ゲストが母国語で送ってきた質問も日本語で届き、こちらが日本語で返したメッセージも相手の言語に自動で変換されます。対面で直接話すよりも、Airbnbでのやり取りのほうがかえってスムーズに意思疎通できていますね。
小坂(政):開業前、勉強のために大阪の無人民泊に泊まった際、コンビニの場所を尋ねればすぐに返信が届くなど、温かなホスピタリティを感じた経験がありました。私たちも「バーベキューをしたい」というゲストに地元のお肉屋さんを紹介するなど、直接会わなくても心のこもったやり取りを大切にしながら、地域回遊にも繋げています。
小坂(由):清掃は、市が協定を組んでいるスキマバイト「タイミー」で募集しました。現在は「宿を一緒に育てたい」と言ってくださる地元スタッフ3名が固定で入ってくれています。
漆畑:清掃スタッフの方から「こうしたらお客様が喜ぶのでは」というアイデアが出るなど、とても良い関係ができていますよね。宿泊施設が増えることで、地域に新しい雇用が生まれています。
小坂(政):無人運営ゆえの大きなトラブルも今のところはないですね。おかげさまで開業直後から順調に予約が入り、平日の稼働率も高くなっています。
特手:2~3回目の訪日となる外国人観光客は、数週間から数カ月かけて地方を旅する人が多いんです。有名なスポットよりも長期滞在できる宿を目的に訪れ、そこを拠点にレンタカーなどで周遊していくんですね。竹原をはじめ広島県内に民泊が増えれば、外国人に向けて「西日本を巡るための拠点」として打ち出すことができます。
小坂(政):実際、この宿から九州や関西まで足を延ばす方や、ゴルフ目的で連泊する韓国からのゲストもいらっしゃいますね。ゲレンデがある地域の宿も需要が高いと聞きます。そういったお客様は長期滞在してくださるので、安定した収益に繋がっています。
民泊を通じた地域活性化とは?
漆畑:竹原市内でも高齢化と人口減少に伴い空き家が増えていますが、空き家バンクにはなかなか登録されません。「長年大切に守ってきた家を知らない人に託すのは不安」と手放せないケースが多いためです。
地域の会合でも「祖父母から空き家を譲り受けたが、そのままになっている」という声をよく聞きます。こうした潜在的な地域課題に対して、「エデンの海ヒルズ」の事例が、所有者の方々にとって新たな活用の選択肢として認知されるといいなと思っています。
特手:竹原に限らず、地方には壊して更地にしてしまうにはもったいない物件がたくさん眠っています。大掛かりな改修をしなくても、少し整えれば「民泊」という観光資源に生まれ変わるんです。
小坂(由):私たちも開業前、特手さんの案内で愛媛県の興居島(ごごしま)を見学しました。小さな島に3年で15軒ほどの民泊が生まれ、滞在者が増えていったそうです。さらに地元の人や移住者がクラフトビールの製造やコーヒーショップを始めるなど、島全体が活気づいていました。
「観光地でなくても民泊ができることで人の滞在が生まれ、地域が活性化していくんだ」と肌で感じた経験でしたね。
小坂(政):島で空き家を民泊に転用するための活動に取り組んでいたのは、
民泊は、過疎地域を盛り上げる起爆剤になると確信しました。商工会議所などとも連携しながら、竹原でも民間のわれわれがスピード感をもって進めていきたいですね。
漆畑:「エデンの海ヒルズ」のような無人民泊が増え、Airbnbといったツールを使って海外にも情報を届けていくことで、市全体でさらなる宿泊需要に応えられるようになると思います。
竹原には素晴らしい観光資源や産業資源がたくさんありますから、民泊を起点に観光が盛り上がることは、自分たちの経済圏を発展させることにも繋がっていくはずです。
空き家活用で悩んでいる方が後に続いて挑戦できるよう、「たけはらDX」でもAirbnbの運用ノウハウを活かし、参入のハードルになりやすい清掃は、
民泊を始めたい人へのメッセージ
特手:「民泊を始めてみたい」と思ったら、まずは実際に民泊を運営している人に話を聞いてみるのが一番です。
小坂(政):そうですね。私たちも特手さんのように詳しい方の伴走がなければ、開業までにもっとお金と時間を費やしていたと思います。私たちの宿でも見学は大歓迎です。
小坂(由):県内で民泊を実践する人同士の繋がりができれば、悩みを相談し合えて心強いですよね。
特手:インバウンド客からの広島に対する熱量はとても高い一方で、受け入れ態勢はまだまだ追いついておらず、大きなチャンスがあります。ただし、民泊は始めれば必ず成功するわけではなく、廃業率は36%と決して低くはない業態です。
だからこそ、信頼できる専門家に相談し、行政の各種補助金や商工会議所が行う低金利融資などを利用しながら、初期費用を抑えること。開業前に、事業として無理なく続けられる形を描くことが大切だと思います。